・・・佐佐木君は二三日前にこゝにいましたが、その間も何とか云うピランデロの芝居やサラア・ベルナアルのメモアの話などをし、大いに僕を啓発してくれました。小島君も和漢東西に通じた読書家です。これは小島君の小説よりも寧ろ小島君のお伽噺に看取出来ることゝ・・・ 芥川竜之介 「剛才人と柔才人と」
・・・僕は西川と同級だったために少なからず啓発を受けた。中学の四年か五年の時に英訳の「猟人日記」だの「サッフォオ」だのを読みかじったのは、西川なしにはできなかったであろう。が、僕は西川には何も報いることはできなかった。もし何か報いたとすれば、それ・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・それを十分に考えてみることなしに、みずから指導者、啓発者、煽動家、頭領をもって任ずる人々は多少笑止な立場に身を置かねばなるまい。第四階級は他階級からの憐憫、同情、好意を返却し始めた。かかる態度を拒否するのも促進するのも一に繋って第四階級自身・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・席上鋳金に美術を求める、そんな分らない校長ではないと思っていたが、校長には校長の考えもあろうし、鋳金はたとい蝋型にせよ純粋美術とは云い難いが、また校長には把掖誘導啓発抜擢、あらゆる恩を受けているので、実はイヤだナアと思ったけれども枉げて従っ・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・私が、あなたのお手紙の、ほとんど暴力に近い、それこそ実も蓋も無い素朴な表現に驚嘆したのも、たしかな事実でありますが、その表現せられている御意見には、一つも啓発せられるところが無かったというのも事実でありました。いまさら何を言っていやがると思・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・こういう点では、下町の素人の芝居好きの劇評のほうがかえって前述のごとき著名なインテリゲンチアの映画批評家の主観的概念的評論よりもはるかに啓発的なことがありうるようである。 こんな不満をいだいていたのであったが、近ごろは立派な有益な批評を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・とか、それからこれはまだ一部しか見ていないが入沢医学博士の近刊随筆集など、いずれも科学者でなければ書けなくて、そうして世人を啓発しその生活の上に何かしら新しい光明を投げるようなものを多分に含んでいる。それから、自分の知っている狭い範囲内でも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ ニュース映画はこの意味において人間の頭脳の啓発に多大な役目をつとめるものでなければならない。この点にニュース映画の重大な使命がかかっていると言わなければならない。 ずっと前に、週刊ロンドン・タイムスで、かの地の裁判所における刑事裁・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・それにはこういう公会堂のようなものを作って時々講演者などを聘して知識上の啓発をはかるのも便法でありますし、またそう知的の方面ばかりでは窮屈すぎるから、いわゆる社交機関を利用して、互の歓情をつくすのも良法でありましょう。時としては方便の道具と・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・機縁が熟すと云う意味は、この極致文芸のうちにあらわれたる理想と、自己の理想とが契合する場合か、もしくはこれに引つけられたる自己の理想が、新しき点において、深き点において、もしくは広き点において、啓発を受くる刹那に大悟する場合を云うのでありま・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫