・・・ が、とうとう堪えられなくなって一粒涙がこぼれ出すともう遠慮も何もなくなって私は手放しの啜り泣きを始めた。 手を握って居ながら叔父はまるで別な事を考えて居るらしかった。 彼は一層陰気な顔になってうつむきながら私を慰め様ともすかそ・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・首に毛糸で編んだ赤や紫の頸巻の様なものを巻きつけて懐手をして、青っぱなを啜り上げ啜りあげ、かさかさな顔をして広い往還の中央にかたまって居る。犬同志をけしかけてけんかをさせたり、猫に悪戯をしかけたりして居る。 女の子は、一本三四銭位の花か・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 怨みがましく言いながら、なおすぐにその言葉の下から、いじらしい、手でさしまねいで涙を啜り、「聞きなされ。ああ何の不運ぞや。夫や聟は死に果てたに……こや平太の刀禰、聞きなされ、むす…むすめの忍藻もまた……忍藻もまた平太の刀禰……忍藻・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫