・・・また彼の耳にはいる父の評判は、営業者の側から言われているものなのか、株主の側から言われているものなのか、それもよくはわからなかった。もし株主の側から出た噂ならだが、営業者間の評判だとすると、父は自分の役目に対して無能力者だと裏書きされている・・・ 有島武郎 「親子」
・・・……お前さん、近所で聞くとね、これが何と……いかに業体とは申せ、いたし方もこれあるべきを、裸で、小判、……いえさ、銀貨を、何とか、いうかどで……営業おさし留めなんだって。…… 出がけの意気組が意気組だから、それなり皈るのも詰りません。隙・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・或人は損害の程度を訊いた。或人は保険の額を訊いた。或人は営業開始の時期を訊いた。或人は焼けた書籍の中の特記すべきものを訊いた。或人は丸善の火災が文明に及ぼす影響などゝ云う大問題を提起した。中には又突拍子もない質問を提出したものもあった。曰く・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・ あって邪魔になるわけでもない支店をつぶすために、わざわざ直営店をつくるにも当らないとは、常識で判断してもわかることで、いうまでもなく直営店はより多く薬を売るための手段、いわば全くの営業政策にほかならなかったのだ。 同時にまた、こう・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 左様いう塾に就いて教を乞うのは、誰か紹介者が有ればそれで宜しいので、其の頃でも英学や数学の方の私塾はやや営業的で、規則書が有り、月謝束修の制度も整然と立って居たのですが、漢学の方などはまだ古風なもので、塾規が無いのではありませんが至っ・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・またその掘出物を安く買って高く売り、その間に利を得る者があれば、それは即ち営業税を払っている商売人でなければならぬ。商売人は年期を入れ資本を入れ、海千山千の苦労を積んでいるのである。毎日真剣勝負をするような気になって、良い物、悪い物、二番手・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・これは明治まで存し、今でも辺鄙には密に存するかも知れぬが、営業的なものである。但しこれには「げほう」が連絡している。忍術というのは明治になっては魔法妖術という意味に用いられたが、これは戦乱の世に敵状を知るべく潜入密偵するの術で、少しは印を結・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・これは娯楽にやる人もあり、営業にやる人もある。珠数子釣りは鉤は無くて、餌を綰ねて輪を作る、それを鰻が呑み込んだのをたまで掬って捕るという仕方なのだ。面白くないということはないが、さりながら娯楽の目的には、ちと叶わないようなものである。同理別・・・ 幸田露伴 「夜の隅田川」
・・・ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、先ず官省のような大組織。外国文書の飜訳、それが彼の担当する日々の勤務であった。足を洗おう、早く――この思想は近頃になって殊に烈しく彼の胸中を往来する。その為に深夜までも思い耽る、朝も遅く・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・田島の如きあか抜けた好男子の出没は、やはり彼女の営業を妨げるに違いないと、田島自身が考えているのである。 それが、いきなり、すごい美人を連れて、彼女のお店にあらわれる。「こんちは。」というあいさつさえも、よそよそしく、「きょうは女房・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
出典:青空文庫