・・・鳥は、チチ、チチ、と短く囀りながら、二とび三とび地面を進んで見る。思いがけず翔び出した広い空気をまだ信じられず、子供らしく愛らしく、愕きに満ちているようだ。その感情のあらわれた、不決断な風が一層美しさを添えた。ついその上の軒に吊った、しゃれ・・・ 宮本百合子 「春」
三四日梅雨のように降りつづいた雨がひどい地震のあと晴れあがった。 五時すぎて夕方が迫っているのに 雀がチク チ チチと楽しそうに囀り、まだ濡れて軟かく重い青葉は眼に沁みる程 蒼々として見える。どこでホーホケキョと鶯の声・・・ 宮本百合子 「無題(十)」
・・・明るいながら朝になっても、おのずから朝の空気は新鮮に流れ出して、暁の微風が樹々の梢をそよがせはじめるし、河水の面が生気をもどして、雀も囀りはじめて来る。 やがてそろそろ朝日に暑気が加って肌に感じられる時刻になると、白いルバーシカ、白い丸・・・ 宮本百合子 「モスクワ」
・・・そして、満腹の雀は弛んだ電線の上で、無用な囀りを続けながらも尚おいよいよ脹れて落ちついた。「姉さん、すまんな、今お医者さんとこへ行って来たんやわ。もう来てくれやっしゃるやろ。」 暫くしてお霜はお留に呼び醒まされて彼女を見た。「ど・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫