・・・というのがあり、「聾の一心」というのがある。「聾の一心」は博文館の「春夏秋冬」という四季に一冊の冬に出た。そうしてその次に「鐘声夜半録」となり、「義血侠血」となり、「予備兵」となり、「夜行巡査」となる順序である。明治四十年五月・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・ 何といっても、私が最も、年齢について、悲哀を感じたのは、その三十の年を過ぐる時でありました。「あゝ、もう青春も去ってしまったのか?」 四季について言えば、三十までは、春の日の光りの裡にまどろむ自然の如くでありました。柔らかな、・・・ 小川未明 「机前に空しく過ぐ」
・・・』と小山は突然呼んだ、『兄さん、人の一生を四季にたとえるようですが、春を小生のような時として、小春は人の幾歳ぐらいにたとえていいでしょう』と何を感じたか、むこうへ向いたまま言った。『秋かね?』『秋と言わないで、小春ですよ!』『僕・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・正元元年より二年にかけては大疫病流行し、「四季に亙つて已まず、万民既に大半に超えて死を招き了んぬ。日蓮世間の体を見て、粗一切経を勘ふるに、道理文証之を得了んぬ。終に止むなく勘文一通を造りなして、其の名を立正安国論と号す。文応元年七月十六日、・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安息はここにあるという気がしてくる。四季その折々の風物の移り変りと、村の年中行事を、その時々にたのしめるようになったのは、私には、まだ、この二三・・・ 黒島伝治 「四季とその折々」
・・・これは四季によって少しずつ違う。起きて直ぐ、蒲団を片付け、毛布をたゝみ、歯を磨いて、顔を洗う。その頃に丁度「点検」が廻わってくる。一隊は三人で、先頭の看守がガチャン/\と扉を開けてゆくと、次の部長が独房の中を覗きこんで、点検簿と引き合せて、・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・海賊の王、チャイルド・ハロルド、清らなる一行の詩の作者、たそがれ、うなだれつつ街をよぎれば、家々の門口より、ほの白き乙女の影、走り寄りて桃金嬢の冠を捧ぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹の怒、鳩の愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青・・・ 太宰治 「喝采」
・・・、積木の相手、アンヨは上手、つつましきながらも家庭は常に春の如く、かなり広い庭は、ことごとく打ちたがやされて畑になってはいるが、この主人、ただの興覚めの実利主義者とかいうものとは事ちがい、畑のぐるりに四季の草花や樹の花を品よく咲かせ、庭の隅・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・婦人雑誌あたりの切り抜きらしく、四季の渡り鳥という題が印刷されていた。「ねえ。この写真がいいでしょう? これは、渡り鳥が海のうえで深い霧などに襲われたとき方向を見失い光りを慕ってただまっしぐらに飛んだ罰で燈台へぶつかりばたばたと死んだと・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・がけたことがない様で、薔薇の大輪、取るに足らぬ猿のお面そっくりで、一時は私も、部屋を薄暗くして寝て、大へんつまらなく思いましたが、仕合せのことには、私よほどの工夫をしなければ、わが背中見ること能わず、四季を通じて半袖のシャツを着るように心が・・・ 太宰治 「虚構の春」
出典:青空文庫