・・・昨年、二科から脱退して、新浪漫派とやらいう団体を、お作りになる時だって、私は、ひとりで、どんなに惨めな思いをしていた事でしょう。だって、あなたは、蔭であんなに笑って、ばかにしていたおかた達ばかりを集めて、あの団体を、お作りになったのでござい・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・女学校の修学旅行の団体が、遊覧バスに乗って、幾組も目の前を通る。バスの扉に、その女学校の名前を書いた紙片が貼りつけられて在る。故郷の女学校の名もあった。長兄の長女も、その女学校にはいっている筈である。乗っているのかも知れない。この東京名所の・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・私は、かねがね、あの田舎の中学生女学生の団体で東京見物の旅行の姿などに、悲惨を感じている者であるが、もし自分が外国へ行ったら、あの姿そのままのものになるにきまっていると思っている。 醜い顔の東洋人。けちくさい苦学生。赤毛布。オラア、オッ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・二、三日前までは現在の外にもう二、三羽居たのだがある日おとずれて来たある団体客の接待に連れ去られたそうである。生き残った家鴨どもはわれわれには実によく馴ついて、ベランダの階段の一番上まで上がって来てパン屑をねだる。そうして人を頼る気持は犬や・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・警備の巡査、兵士、それから新聞社、保険会社、宗教団体等の慰問隊の自動車、それから、なんの目的とも知れず流れ込むいろいろの人の行きかいを、美しい小春日が照らし出して何かお祭りでもあるのかという気もするのであった。今度の地震では近い所の都市が幸・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・また一つの都府の市民というごとき抽象的の団体を考うる時はその要素たる各個人とは独立に時とともに不変なる標準も考えらるれども、一般には必ずしも然らず。例えば一般の東京市民にとりては、夜半の小雨はあえて利害を感ぜざるべきも昼間の雨には無頓着なら・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・印刷工場で、団体見学の女学生などにみられるときもはずかしかったが、竹細工はもっとはずかしかった。何せみられる方が一人ぽっちであった。いい若いもんが手内職みたいな仕事をしているということもあった。しかし、それがどうして悪いのだろう? 何でこん・・・ 徳永直 「白い道」
・・・印刷機械の錆付きそうな会社の内部に在って、利平達は、職長仲間の団体を造って、この争議に最初の間は「公平なる中立」の態度を持すと声明していた。尤もそれを信用する争議団員は一人もありはしなかったが……しかし、モウ今日では、利平達は、社長の唯一の・・・ 徳永直 「眼」
・・・その時代から一般の風俗は次第に変って来てポオル・ド・コックの後には画家の一団体が盛に巴里郊外の勝地を跋渉し始めた。今日では誰も知っている彼の Meudon の佳景を発見したのは自然を写生するために古典の形式を破棄した Franais 一派の・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・例えて見ればあなた方という多人数の団体が今ここで私の講演を聴いておいでになる。聴いていない方もあるかも知れないが、まア聴いているとする。そうするとその個人でない集合体のあなた方の意識の上には今私の講演の内容が明かに入る。と同時に、この講演に・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫