・・・西洋へ帰りたくはありませんかと尋ねたら、それほど西洋が好いとも思わない、しかし日本には演奏会と芝居と図書館と画館がないのが困る、それだけが不便だと云われた。一年ぐらい暇を貰って遊んで来てはどうですと促がして見たら、そりゃ無論やって貰える、け・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・近頃ではこれらの書籍を蒐集しただけでも優に相応の図書館は一杯になるだろうと思われる位である。けれども真の観察と、真の努力と、真の同情と、真の研究から成ったものは極めて乏しいと断言しても差支はあるまい。余はこの乏しいものの一として、先生の歴史・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・それなら自力でそれを窮め得るかと云うと、まあ盲目の垣覗きといったようなもので、図書館に入って、どこをどううろついても手掛がないのです。これは自力の足りないばかりでなくその道に関した書物も乏しかったのだろうと思います。とにかく三年勉強して、つ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・そして図書館の二階で、毎日黄いろに古びた写本をしらべているうちに、遂にこういういいことを見附けました。「一、山男紫紺を売りて酒を買い候事、山男、西根山にて紫紺の根を掘り取り、夕景に至りて、ひそかに御城下(盛岡へ立ち出で候上、材木町生・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・ソヴェト同盟には工場図書館、スポーツ・サークルが発達していて、大体無料でいろいろのことができるが、食物、衣服はまだ無料とはゆかない。若い男や女の勤労者が、真に健康に、立派に階級の前衛として育つために、ソヴェト同盟では、男女青年労働者の待遇の・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・リス、楓、ぬれて横わるパン、インディアン ダンス○図書館 ○往来、 插話は此処へ入る。 ――○――○レークジョージ ○メゾン ファシール、 ○チョプスイ。○アムステルダム ○岩本さんのところ。○バン コートランド。・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・丁度、図書館の書物蔵のように、高くまで大きな箱が幾通りにも立ち、バタン、バタンと賑に落ちる蓋つきの小さい区切りが、幾十となく、名札をつけて並んでいるのである。 下のタタキに下駄の音をさせてその間に入り、塵くさいような、悪戯のような匂いを・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ 上級生になってから、学校の図書館に出入りしてよいことになった。丁度その頃、千葉安良先生という一人の女先生が西洋歴史からやがて教育と心理学とを受持たれた。この先生こそ、私にとって忘られない先生である。千葉先生が、教科書以外に図書室から借・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・ カールは朝九時から夕方七時まで大英博物館の図書館で仕事をした。エンゲルスの援助と、ニューヨーク・トリビューン紙から送られる一回僅か五ドルの原稿料が生活の資であった。五〇年五月にイエニーがワイデマイヤーに宛て書いた手紙はロンドンに於ける・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・あたかも大学と劇場と美術学校と美術館と音楽学校と音楽堂と図書館と修道院とを打って一丸としたような、あらゆる種類の精神的滋養を蔵した所であった。そこで彼らは象徴詩にして哲理の書なる仏典の講義を聞いた。その神話的な、象徴化の多い表現に親しむとと・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫