・・・さてこうなって考えますと、叔母の尼さえ竜の事を聞き伝えたのでございますから、大和の国内は申すまでもなく、摂津の国、和泉の国、河内の国を始めとして、事によると播磨の国、山城の国、近江の国、丹波の国のあたりまでも、もうこの噂が一円にひろまってい・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・強権の勢力は普く国内に行わたっている。現代社会組織はその隅々まで発達している。――そうしてその発達がもはや完成に近い程度まで進んでいることは、その制度の有する欠陥の日一日明白になっていることによって知ることができる。戦争とか豊作とか饑饉とか・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 国内に天変地災のしきりに起こるのは、正法乱れて、王法衰え、正法衰えて世間汚濁し、その汚濁の気が自ら天の怒りを呼ぶからである。「仏法やうやく顛倒しければ世間も亦濁乱せり。仏法は体の如く、世間は影の如し。体曲がれば影斜なり」 それ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 今は酒は珍らしくはない。国内で作られている。 今は、五カ年計劃の実行に忙がしかった。能率増進に、職場と職場が競争した。贅沢品や、化粧品をこしらえているひまはなかった。そんなものをかえりみているどころではなかった。 寒気が裂ける・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・――そのハリコフ会議の日本プロレタリア文学運動についての決議は、農民文学に関して「国内に大きな農民層を持つ日本にあっては、農民文学に対するプロレタリアートの影響を深化する運動が一層注意される必要がある。日本プロレタリア作家同盟の内部に農民文・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ 資本家の間に於ける独占は、始めは国内の市場をそれぞれに分割する。が、国内の市場は、資本主義の下では、外国市場と密接な関係を持っていて、そこで、それらは、一定の世界市場を形成することになる。こゝで、大資本家の団体が、ある原料産地や、市場・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ 明治年間、殊に、日清戦争から、日露戦争前後にかけての期間は、最も軍国主義的精神が、国内に横溢した時期だった。そして、これは明治時代の作家の、そのかなり大部分のイデオロギーにも反映せずにはいなかった。殊に、明治に於ける文学運動のなかでも・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・酒は不潔な堕落のような気がして、このとしになるまで盃をふくんだ事がなかったのですが、国内に酒が少し不足になりかけた頃に、あわてて酒の稽古をするとは、実に、おどろくべき遅刻者であります。私は、いつでも遅刻ばっかりしていました。いっそトラックを・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・これを三度、四度ほど繰り返して、身心共に疲れてぐたりとなり、ああ酔った、と力無く呟いて帰途につくのである。国内に酒が決してそんなに極度に不足しているわけではないと思う。飲む人が此頃多くなったのではないかと私には考えられる。少し不足になったと・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・ 軍縮問題が一時国内の耳目を聳動した。問題は一に国防の充実いかんにかかっている。陸海軍当局者が仮想敵国の襲来を予想して憂慮するのももっともな事である。これと同じように平生地震というものの災害を調べているものの目から見ると、この恐るべき強・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
出典:青空文庫