・・・(日本書紀 いかなる国の歴史もその国民には必ず栄光ある歴史である。何も金将軍の伝説ばかり一粲に価する次第ではない。 芥川竜之介 「金将軍」
・・・ * 一国民の九割強は一生良心を持たぬものである。 * 我我の悲劇は年少の為、或は訓練の足りない為、まだ良心を捉え得ぬ前に、破廉恥漢の非難を受けることである。 我我の喜劇は年少の為、或は訓練の足りない為、破廉・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があって、芝居が初まると国民が一人残らず見物しなけやならん憲法があるのだから、それはそれは非常な大入だよ、そんな大仕掛な芝居だから、準備にばかりも十カ月かかるそうだ』『お産をすると同じだね』『その俳優・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・またすべての青年の権利たる教育がその一部分――富有なる父兄をもった一部分だけの特権となり、さらにそれが無法なる試験制度のためにさらにまた約三分の一だけに限られている事実や、国民の最大多数の食事を制限している高率の租税の費途なども目撃している・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ と片手に戎衣の袖を捉えて、片手に拝むに身もよもあらず、謙三郎は蒼くなりて、「何、私の身はどうなろうと、名誉も何も構いませんが、それでは、それではどうも国民たる義務が欠けますから。」 と誠心籠めたる強き声音も、いかでか叔母の耳に・・・ 泉鏡花 「琵琶伝」
・・・浅くも楽むことが出来るのである、最も生活と近接して居って最も家族的であって、然も清閑高雅、所有方面の精神的修養に資せられるべきは言うを待たない、西洋などから頻りと新らしき家庭遊技などを輸入するものは、国民品性の特色を備えた、在来の此茶の湯の・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・総ての公平な判断や真実の批評は常に民族的因襲や国民的偏見に累わされない外国人から聞かされる。就中、芸術の真価が外国人の批評で確定される場合の多いは啻に日本の錦絵ばかりではないのだ。 二十年前までは椿岳の旧廬たる梵雲庵の画房の戸棚の隅には・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
若い蘇峰の『国民之友』が思想壇の檜舞台として今の『中央公論』や『改造』よりも重視された頃、春秋二李の特別附録は当時の大家の顔見世狂言として盛んに評判されたもんだ。その第一回は美妙の裸蝴蝶で大分前受けがしたが、第二回の『於母影』は珠玉を・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・国は小さく、民は尠く、しかして残りし土地に荒漠多しという状態でありました。国民の精力はかかるときに試めさるるのであります。戦いは敗れ、国は削られ、国民の意気鎖沈しなにごとにも手のつかざるときに、かかるときに国民の真の価値は判明するのでありま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・国家が栄えれば自然国民も栄えるからです。国家が強く富まなければ、国民は、決して幸福になれよう筈がない。お母さんは、その心掛けで、子供を教育しなければなりません。先ず、学問よりは体の健康が第一です。ある学科が不出来だからといって、必ずしもやか・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
出典:青空文庫