・・・の字さんと言う(これは国木田独歩の使った国粋的薬種問屋の若主人は子供心にも大砲よりは大きいと思ったと言うことです。同時にまた顔は稲川にそっくりだと思ったと言うことです。 半之丞は誰に聞いて見ても、極人の好い男だった上に腕も相当にあったと・・・ 芥川竜之介 「温泉だより」
・・・それから社会主義の某首領は蟹は柿とか握り飯とか云う私有財産を難有がっていたから、臼や蜂や卵なども反動的思想を持っていたのであろう、事によると尻押しをしたのは国粋会かも知れないと云った。それから某宗の管長某師は蟹は仏慈悲を知らなかったらしい、・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・ 井侯以後、羹に懲りて膾を吹く国粋主義は代る代るに武士道や報徳講や祖先崇拝や神社崇敬を復興鼓吹した。が、半分化石し掛った思想は耆婆扁鵲が如何に蘇生らせようと骨を折っても再び息を吹き返すはずがない。結局は甲冑の如く床の間に飾られ、弓術の如・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・そして、なお日清戦争後には、高山樗牛の日本主義の主張が起り、日露戦争後には、岩野泡鳴の国粋主義の主張が起ったことも、一九三二年のファッショの発展と照合して、注目に価する。 更に、もう一つ指摘するならば、一九三〇年頃より「日米若し戦はゞ」・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それからまた鹿狩りの場に現われた貴族的なスポーツ風景は国粋主義の紳士淑女を喜ばすものであり、シャトーにおける生活の空虚と痴愚を露骨に風刺する多数の画面は卑近な民衆イデオロギーに迎合するものであろう。その中で比較的成効しているのは、サヴィニャ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・ あれほど常識的な英国にでもわれわれに了解の出来ないほど馬鹿げた儀式が残っているようであるが、それが今日では単に国粋保存というような意味ばかりでなく、つまり、常に常識的であるための「非常識デー」として存在の価値を保っているらしく私には思・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかし昨今のように国粋的なものが喜ばれ注意される傾向の増進している時代では、あるいはこうした研究もそれほどに異端視されなくてもすむかもしれないと思われる。「囲碁」や「能楽」のように西洋人に先鞭をつけられないうちにだれか早く相撲の物理学や生理・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・の声を音譜にとるなり蓄音機のレコードにとるなりなんらかの方法で記録し保存しておいて百年後の民俗学者や好事家に聞かせてやるのは、天然物や史跡などの保存と同様にかなり有意義な仕事ではないかという気がする。国粋保存の気運の向いて来たらしい今の機会・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・この雪嶺は、国粋主義者で、中野正剛を婿にした。これもことわるほどの者でもなかろう、というわけだったのかもしれない。誰かから、立派な邸宅をおくられた。ことわるほどのものでもなかったと見えて、それもうけとった。 漱石の妻君の弟に、建築家があ・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・科学的精神の発展の路は困難をもっていて、歴史の種々な時期に迷信と闘い、誤った国粋主義と闘い、同時に自身の制約とも闘って今日に及んで来ているのである。 日本の科学者の心持は今日どのような状態におかれているのであろうか。非常に複雑な問題であ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫