・・・もっとも別に疎遠になったというわけではない、日曜や土曜もしくは平日でさえ気に向いた時はやって来て長く遊んでいった。元来が鷹揚なたちで、素直に男らしく打ちくつろいでいるようにみえるのが、持って生まれたこの人の得であった。それで自分も妻もはなは・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・もし時間があると思わなければ、また時間を計る数と云うものがなければ、土曜に演説を受け合って日曜に来るかも知れない。御互の損になります。空間があると心得なければ、また空間を計る数と云うものがなければ、電車を避ける事もできず、二階から下りる事も・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・明る土曜はまず平常の通りで、次が「イースター・サンデー」また買物を禁制される。翌日になってもう大丈夫と思うと、今度は「イースター・モンデー」だというのでまた店をとじる。火曜になってようやくもとに復する例である。内の夫婦は御祭中田舎の妻君の里・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ ――今日は土曜じゃないか、それにどうして午後面会を許すんだろう。誰が来てるんだろう。二人だけは分ったが、演説をやったのは誰だったろう。それにしても、もう夕食になろうとするのに、何だって今日は面会を許すんだろう。 私は堪らなく待ち遠・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ 二十八日 静かな夜、Grant's tomb の廻りを幾度も幾度も歩きながら、結婚生活に就て話し、ファシールで茶をのみ、三月 一日 土曜、ブァン コーランドに行く。明い晴れた風の吹く日、三月 三日 三井物産の人達が御飯に・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・大きくなってこんな土曜の夜を思い出したらどんなに懐かしいでしょうね。私はひどく感興を覚え、こっち側からのぞいて「極楽極楽」とほめてやりました。 今日は色々嬉しいのよ。天気がよすぎて私の眼はまくまくで、一入ものがみえないけれど、起きたらお・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
土曜・日曜でないので、食堂は寧ろがらあきであった。我々のところから斜彼方に、一組英国人の家族が静に食事している。あと二三組隅々に散らばって見えるぎりだ。涼しい夏の夜を白服の給仕が、食器棚の鏡にメロンが映っている前に、閑散そ・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・母「だってすえ子はもう土曜にかえしてあったじゃあありませんか」「ハハハハ本当にそうだったな」私「一寸お忘れになったのね、そのとき」「ふーうむ」 これは母コウヅに女中ととまり かえって、その日帝劇で父と会ったとき、父上の話・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
九月一日、土曜 私共は、福井に八月一日より居、その日、自分は二階、Aは階下で勉強中。十二時一二分すぎ、ひどい上下動があった。自分はおどろき立ち上ったが二階を降るのが不安なほど故、やや鎮るのを待って降りる。あまり日でりが・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 土曜日は、一週間の買い入れ日です。あちらでは、日曜日は一般に全くの休日で、八百屋から肉屋、文房具屋まで店を閉じてしまいます。それ故、日曜日、次の月曜に入用なものは勿論、買いものは出来る丈この日に纏め、下町の、それぞれで名を売っているよ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫