・・・内地のような木造家屋は地震には比較的安全だが台湾ではすぐに名物の白蟻に食べられてしまうので、その心配がなくて、しかも熱風防御に最適でその上に金のかからぬといういわゆる土角造りが、生活程度のきわめて低い土民に重宝がられるのは自然の勢いである。・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・かつまた天下の人、ことごとく文才を抱くべきにもあらざれば、辺境の土民、職業忙わしき人、晩学の男女等へ、にわかに横文字を読ませんとするは無理なり。これらへはまず翻訳書を教え、地理・歴史・窮理学・脩心学・経済学・法律学等を知らしむべし。・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・クリスチアーナという女の愛に失望したマリオ・ルドヴィッチ中尉が従来の生活環境と感情とから脱却するために、アフリカのリビヤへ赴きそこの守備隊に加って土民征服に出かける。この経験から生きる目的を一変させた中尉ルドヴィッチは後を慕って来たクリスチ・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・兵火におびえる昔の百姓土民のように、あわれにこそこそと疎開小包をつくるよりさきに、わたしたちは落付いて観察し判断するべきいくつかの重大なことを持っていると思う。わたしたち自身を恐慌から救うために―― 日本人の心には、戦争を一つの「災難」・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・に苦しい思いを抱かせているその日本の学術精神から、この上基礎的勉学を奪い、応用、模倣の末端ばかりを仕込んだら、次の世代の日本人は、世界の学問水準からみたら、命令を理解するに足りるだけの程度をもった知的土民となりさがってしまうだろう。 六・・・ 宮本百合子 「平和をわれらに」
出典:青空文庫