・・・そのときの漫画はね、まるでバルザックみたいな上半身の横に、一つ土瓶が描いてあるのでした。私が土瓶一つからだって、見るその人の生活によって、どんなに連想の内容がちがうかということを云ったからでしょう。文学における表現の形象性と云えば、重ね引出・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・去年は雨が多すぎて兎の体にわるかったそうですが、今年は又土瓶水という有様で、兎はどうだったでしょう。 うちの鶏は、夏の間も毎日二つずつぐらい玉子を生んだそうです。東京は今玉子が百匁で三十七銭です。公定価格です。真黒いひよっこがかえったそ・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・が、便所へ行く筈だったと気が附くと、裾を捲って裏口へ行きかけたが、台所の土瓶が眼につくと、また咽喉が渇いているのに気がついた。彼女は土瓶を冠って湯を飲んだ。そこへ勘次が安次を連れて這入って来た。「秋公いるかな?」「お前今日な、馬が狸・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫