・・・ 子供は、たくさんの土産物と、お金とを持って、はるばると故郷に帰ってきたのであります。そして、村の人々に厚くお礼を申しました。村の人たちは、牛女の子供が出世をしたのを喜び、祝いました。 牛女の子供は、なにか、自分は事業をしなければな・・・ 小川未明 「牛女」
・・・ 眼の下にお土産物を売っている店がある。木地細工の盆や、茶たくや、こまや、玩具などを並べている。其の隣りには、果物店があった。また絵はがきをも売っている。稀に、明日帰るというような人が、木地細工の店に入っているのを見るばかりであるが、果・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・その客というのは東京のあるレコード会社の重役でしたが、文子はその客が好かぬらしく、だからたまたま幼馴染みの私がその宿屋の客引をしていたのを幸い、土産物を買いに出るといっては、私を道案内にしました。そして、二人は子供のころの想い出話に耽ったの・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・から、土産物屋、洋品屋、飲食店など殆んど軒並みに皎々と明るかった。 その明りがあるから、蝋燭も電池も要らぬ。カフェ・ピリケンの前にひとり、易者が出ていた。今夜も出ていた。見台の横に番傘をしばりつけ、それで雪を避けている筈だが、黒いマント・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・子供らへの土産物なども整えてくれた。私は例の切抜きと手帳と万年筆くらい持ちだして、無断で下宿を出た。「とにかくまあ何も考えずに、田舎で静養してきたまえ、実際君の弱り方はひどいらしい。しかしそれもたんに健康なんかの問題でなくて、別なところ・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 惣治は時々別荘へでも来る気で、子供好きなところから種々な土産物など提げては、泊りがけでG村を訪ねた。「閑静でいいなあ、別世界へでも来た気がする。終日他人の顔を見ないですむという生活だからなあ」 惣治はいつもそう言った。……・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・三十円ばかり貯蓄しているから、往復の旅費と土産物とで二十円あったらよかろうと思う。三十円みんな費ってしまうと後で困るからね」というのを聞いて僕は今さらながら彼の用意のほどに感じ入った。彼の話によると二年前からすでに帰省の計画を立ててそのつも・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・やたらに土産物を買った。少しも気持が、はずまない。 これでよいのかも知れぬ。私は、とうとう佐渡を見てしまったのだ。私は翌朝、五時に起きて電燈の下で朝めしを食べた。六時のバスに乗らなければならぬ。お膳には、料理が四、五品も附いていた。私は・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・単に茶代の奮発だけで済む事なら大した苦痛ではないが、一度び奮発すると、そのお礼としてはいざ汽車へ乗って帰ろうという間際なぞに極って要りもせぬ見掛ばかり大きな土産物をば、まさか見る前で捨てられもせず、帰りの道中の荷厄介にと背負い込せられる。日・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・その勾配を、小旗握った宿屋の番頭に引率された善男善女の大群が、連綿として登り、下りしていて、左右の土産物屋は浅草の仲見世のようである。葡萄を売っている。林檎を売っている。赤や黄色で刷った絵草紙、タオル、木の盆、乾蕎麦や数珠を売っている。門を・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
出典:青空文庫