・・・日本の軍国主義にだまされた自身のいきさつを思うよりも、こんな目にあうその苦しさを、敗戦と、いまは屈従から立って自分たちをかこむ土着民への恐怖と憎悪の感情にこらして、引あげの辛苦を経験した。これら幾十万の人々、特に引あげてきた婦人たちの身に刻・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・野間宏の人間と文学との過程が人々の関心をよびさましているのは、そのように、国内での脱出、国内亡命を生きて来た現代の一つの精神が、彼の選んだ政治の路線をどのような角度でとおって、日本土着の人民の運命に密着し、帰属してゆくか、という点である。野・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 一体この村は若い男も女もあんまり土着のものでは居ない処で、中学に村々から集る若い人達ほか居ないだろうとさえ思われるほどだ。 若い娘の居ない村は私にとっていかにも居心地がわるかった。 私は若い力の乏しい村はきらって居るのだ。・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 文学の地方分散の傾向が、この面で大きく文化的な積極の作用をあらわし、土着の生活的な文学を創り出してゆく刺戟、鼓舞となれば、そこでこそ中村氏の感想に云われているような文学の豊饒への道がつけられるのだろうと思う。 火野葦平氏をかこんで・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
出典:青空文庫