・・・何か圧倒的に迫って来る逞しい迫力が感じられるのだ。ぐいぐい迫って来る。襲われているといった感じだ。焼けなかった幸福な京都にはない感じだ。既にして京都は再び大阪の妾になってしまったのかも知れない。 東京の闇市場は商人の掛声だけは威勢はいい・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・出版物のあらゆるものが圧倒的に戦争に動員された。作家も、文学もまたその例外ではあり得なかった。「戦争文学」「戦争小説」「やまと桜」「討露軍歌かちどき」等の戦ものばかりをのせる文学雑誌が現れた。またしても、江見水蔭、泉鏡花等は戦争小説を書・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・さきごろは又、『めくら草紙』圧倒的にて、私、『もの思う葦』を毎月拝読いたし、厳格の修養の資とさせていただいて居ります。すこしずつ危げなく着々と出世して行くお若い人たちのうしろすがたお見送りたてまつること、この世に生きとし生きて在る者の、もっ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ひとがぼっとしているときには、ただ圧倒的に命令するに限るのである。相手は、意のままである。下手に、自然を装い、理窟を言って相手に理解させ安心させようなどと努力すれば、かえっていけない。 上野の山へのぼった。ゆっくりゆっくり石の段々を、の・・・ 太宰治 「座興に非ず」
・・・ 勝治に圧倒的な命令を下して、仙之助氏の画を盗み出させたのも、こいつだ。本牧に連れていって勝治に置いてきぼりを食らわせたのも、こいつだ。勝治がぐっすり眠っている間に、有原はさっさとひとりで帰ってしまったのである。勝治は翌る日、勘定の支払・・・ 太宰治 「花火」
・・・凡俗へのしんからの、圧倒的の復讐だ。ミイラ取りが、ミイラに成るのではないか? よくあることだ。よせ、よせ。そんな声も聞えるが、けれども、何も私は冒険をするわけではないのである。鴎外なぞを持ち出したので、少し事が大袈裟に響くだけのことであって・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 工場の昨今では、早出、残業、夜業は普通であるし、設備の不十分な下請け工場の簇出と不熟練工の圧倒的多数という条件は、工場内での災害をこれまでの倍にした。警視庁がこれに対して、十二時間を限度とする警告を発したのは遠いことではなかった。母性・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・甘いものと天ぷらが食べたいものの圧倒的多数を占めている事実も、私たちの実感に通じている。 この食べもの調査は相当こまかに分類もして調べられているのだが、家庭の主婦についての調査項目がなかったのは何故だったのだろう。家庭の主婦の心労や骨折・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・日本の議会に圧倒的多数を占めて政権をもった政党が、全くその名を穢辱し、投票者たちを侮辱して公衆の目前にさらした数々のみにくさを考えながら。 吉田首相は、新内閣を組織し、議会を再開した。しかし一般施政方針について演説しない。そのことで・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・新聞週間がはじまったときの街頭録音で、発言した人々の圧倒的な希望は、新聞の公器性を自覚してほしいこと、正確な事実に立つ報道をしてもらいたいことだった。これは、全購読者の希望である。 新聞と異常で衝撃的なニュースとを結びつけて期待している・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
出典:青空文庫