・・・先ず青空を十里四方位の大さに截って、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹るよ』『それが何だい?』『それを積み重ねて、高い、高い、無際限に高い壁を築き上げたもんだ、然も二列にだ、壁と壁との間が唯五間位しかないが、無際限・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・それを疑うことは、怖しいことゝして来た。圧搾せられたる版図に於て、自由を求めた。恨みを述べた。そして人生というものを宿命的のものに強いて見ようとつとめた。「芸術は革命的精神に醗酵す」という宣言の下に生れた芸術とは、全く選を異にする。一つ・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・ 二 圧搾空気の鉄管にくゝりつけた電球が薄ぼんやりと漆黒の坑内を照している。 地下八百尺の坑道を占領している湿っぽい闇は、あらゆる光を吸い尽した。電燈から五六歩離れると、もう、全く、何物も見分けられない。土と、・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ またある日、地下鉄からおりて歩きだすと同時に車も動きだして、ポーッと圧搾空気の汽笛を鳴らす、すると左の手に持っているふろしき包みの中の書物が共鳴して振動する。その振動が手の指先に響いてびりびりとしびれるように感じられた。 研究室へ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 街を歩いている時に通り合せた荷車の圧搾ガス容器が破裂してそのために負傷するといったような災厄が四十二歳前後に特別に多かろうと思われる理由は容易には考えられない。しかしそれほど偶然的でない色々な災難の源を奥へ奥へ捜って行った時に、意外な・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・と始終思い、また義務を尽した後は大変心持が好いのであるが、深くその裏面に立ち入って内省して見ると、願くはこの義務の束縛を免かれて早く自由になりたい、人から強いられてやむをえずする仕事はできるだけ分量を圧搾して手軽に済ましたいという根性が常に・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ ジャックハムマーも、ライナーも、十台の飛行機が低空飛行をでも為ているように、素晴らしい勢で圧搾空気を、ルブから吹き出した。 コムプレッサーでは、ゲージは九十封度に昇っていた。だから、鑿岩機の能率は良かった。「おい、早仕舞にしよ・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・市区改正はどれだけ捗取ったか、市街鉄道は架空蓄電式になったか、それとも空気圧搾式になったかしらッ。中央鉄道は聯絡したかしらッ。支那問題はどうなったろう。藩閥は最う破れたかしらッ。元老も大分死んでしまったろう。自分が死ぬる時は星の全盛時代であ・・・ 正岡子規 「墓」
・・・折角死んでも、それを食べて呉れる人もなし、可哀そうに、魚はみんなシャベルで釜になげ込まれ、煮えるとすくわれて、締木にかけて圧搾される。釜に残った油の分は魚油です。今は一缶十セントです。鰯なら一缶がまあざっと七百疋分ですねえ、締木にかけた方は・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 人工流産を小さい番号札と最大限二十五―三十留までの金と三日の臥床とにだけ圧搾して考えるСССР的無智を啓蒙するために映画「第三メシチャンスカヤ街の恋」はどの程度に役立ったであろうか。第三メシチャンスカヤ街は労働者町だ。 良人とその・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫