・・・夏らしい日あたりや、影や、時の物の茄子でも漬けて在院中の慰みとするに好いような沢山な円い小石がその川岸にあった。あの小山の家の方で、墓参りより外にめったに屋外に出たことのないようなおげんに取っては、その川岸は胸一ぱいに好い空気を呼吸すること・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・一、昭和十一年十月十三日より、ひとつき間、東京市板橋区M脳病院に在院。パヴィナアル中毒全治。以後は、一、十一年十一月より十二年六月末までサナトリアム生活。一、十二年七月より十三年十月末まで、東京より四、五時間以上かかって行き得る・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・それよりはむしろ自分に近い運命を持った在院の患者の経過の方が気にかかった。看護婦に一等の病人は何人いるのかと聞くと、三人だけだと答えた。重いのかと聞くと重そうですと云う。それから一日二日して自分はその三人の病症を看護婦から確めた。一人は食道・・・ 夏目漱石 「変な音」
出典:青空文庫