・・・帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつけられた隠し切れない旗じるしをひどく迷惑に感じるらしい。何とも曖昧な薄笑いを浮べながら、こそりと崖のくぼみに引とった。笑い、私共、歩きながらも笑った。 出島跡を・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・群司次郎正ははっきりと自身のペンが軍事御用ペンであることを昨今は証明しているし『文戦』の里村欣三が『改造』の特派員となって軍事記者を勤め「坂本少尉武勇伝」に就いて、どんな階級的批判をも加えず、書立てているのも社民・労農大衆党と等しく、民主主・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・そこを坂下からこちらへ十人ばかりの陸軍の兵隊が、重い鉄材を積んだ車を曳いて登って来ると、栖方の大尉の襟章を見て、隊長の下士が敬礼ッと号令した。ぴたッと停った一隊に答礼する栖方の挙手は、隙なくしっかり板についたものだった。軍隊内の栖方の姿を梶・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫