・・・と、或時近所の、今なら七銭均一とか十銭均一とかいいそうな安西洋料理へ案内した時にいうと、「だから君の下宿のお膳を一生懸命研究しているじゃアないか、」と抜からぬ顔をして冷ましていた。それでも西洋料理は別格通でなかったと見えて、一向通もいわずに・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ もう十年にもなるだろうか、チェリーという煙草が十銭で買えた頃、テンセンという言葉が流行して、十銭寿司、十銭ランチ、十銭マーケット、十銭博奕、十銭漫才、活動小屋も割引時間は十銭で、ニュース館も十銭均一、十銭で買え、十銭で食べ十銭で見られ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 黒い書類入れを側において、年とった男が回数券を出してきろうとすると、「今日は一枚です……のりかえなければ五銭均一ですから」 俄車掌は、動揺のためのめるまいと長い両脛でうんと踏張り、自分の尖った鼻を腰かけている相手の帽子の下へ突・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫