・・・「先代をくわしく知るものはないがなんでも都の歌人でござったそうじゃが歌枕とかをさぐりにこのちに御出なさってから、この景色のよさにうち込んで、ここに己の骨を埋めるのだと一人できめて御しまいなされ京からあととりの若君、――今の殿が許婚の姫君・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・その奪われた男のあとを埋める者として婦人が立上らなければならなかった。けれども、その立上った手や足や指の一本一本に、そのように大きい負担がかけられていたのであった。 婦人の一般の健康状態は非常に悪くなった。人口に対する結核の罹病率、流産・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・窓の方へ背中を向けて頭を粟稈に埋めるようにしているが、その背中はぶるぶる慄えていると云うのだね。」 小川は杯を取り上げたり、置いたりして不安らしい様子をしている。平山はますます熱心に聞いている。 主人はわざと間を置いて、二人を等分に・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫