・・・今年は肥料だのすっかり僕が考えてきっと去年の埋め合せを付ける。実習は苗代掘りだった。去年の秋小さな盛りにしていた土を崩すだけだったから何でもなかった。教科書がたいてい来たそうだ。ただ測量と園芸が来ないとか云っていた。あしたは日曜だけれども無・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・尾世川は昨日稽古をすっぽかしたことを頻りに弁解し、「どうです、よかったらこれから少し埋め合わせしましょうか」と云った。「さあ……私両国へ行かなくちゃならないから」「何か御用ですか」「バスケットが駅に預けてあるんです」・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・「何だ、こんな事で埋め合わせをするのか、畜生め。」私は仕方なく三等待合室へはいって行った。見ると質朴な田舎者らしい老人夫婦や乳飲み児をかかえた母親や四つぐらいの女の子などが、しょんぼり並んで腰を掛けている。朝からそのままの姿でじっとしていた・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫