・・・スクータリーの名状できない混乱をとおして、秩序と常識と先見と判断との光りが、日に夜にフロレンスが執務しているバラック病院の大廊下のそばの小さい部屋から放射されはじめた。変化は確実であった。病兵はタオルとシャボン、ナイフとフォーク、櫛と歯ブラ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・東洋大学を卒業してすぐ官立大学の図書館に働くことになったが、「執務においては常に専門家であることを要求され、又満足に職をつづけて行く以上は専門家の域にまで進まなくてはならない」「このままでいたならば、私は遂に何もかもなくなって了う。」そう焦・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・今のように特別に暑くなった時でなくても、執務時間がやや進んでから、便所に行った帰りに、廊下から這入ると、悪い烟草の匂と汗の香とで噎せるような心持がする。それでも冬になって、煖炉を焚いて、戸を締め切っている時よりは、夏のこの頃が迥かにましであ・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫