・・・母の考えているところは感じられて、それに反撥しながら、今度こそ独りになって、自分のまわりに執念ぶかく結わかれている柵を二度と結い直しのきかない程にふっ飛ばそう。こんどこそ生きたいように生きるのだと、勇躍して、じかに生活へとび込む希望と好奇心・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 風俗小説、中間小説の題材とテーマが性に最大の重点をおき、その点にばかり拡大鏡をあてて人間関係を見た状態を、この童画の心理にひきくらべて考えると、その気狂いじみた性への執念はむしろおろかしく、物狂わしい非人間生活の図絵としかみえない。社・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ 女の素振りには藍子に対する誠意が乏しく、只尾世川を来させろと繰返す執念だけが強い感じであった。それも彼の恋しさばかりとも思われず、藍子は、女が莨を一本すい終るのを待って立ち上った。 女は、送り出して藍子のコートを着せかけながら、・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・戈を振いながら、彼等の右手は、恐ろしい執念を以て、壊れ落ちる障壁の破片を、しっかりと、命に掛けて掴んで居る。 掴むと知らずに掴んで居る。一つ落ちれば一つと、二つ落ちれば二つと、終には、振う戈の手も止めなければならない程数多くの、破片を抱・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫