・・・ プロレタリア文学運動は、ゼイタクな菓子を食う少数階級でなく、一切のパンにも事欠いて飢え、かつ、闘争している労働者農民大衆の中にシッカリとした基礎を置き、しかも国境にも、海にも山にも妨げられず、国際的に結びつき、発展して行く。――そのハ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ そして、この一致・合同は、つねに自己保存が種保存の基礎であり、準備であることによっておこなわれる。豊富なる生殖は、つねに健全なる生活から出るのである。かくて新陳代謝する。種保存の本能が、大いに活動しているときは、自己保存の本能は、すで・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 而して此一致・合同は、常に自己保存が種保存の基礎たり準備たることに依て行われる、豊富なる生殖は常に健全なる生活から出るのである、斯くて新陳代謝する、種保存の本能大に活動せるの時は、自己保存の本能は既に殆ど其職分を遂げて居る筈である、果・・・ 幸徳秋水 「死生」
「モップル」が、「班」組織によって、地域別に工場の中に直接に根を下し、大衆的基礎の上にその拡大強化をはかっている。 ××地区の第××班では、その班会を開くたびに、一人二人とメンバーが殖えて行った。新しいメンバーがはいって・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・そこではあらゆる文学上の原理に反して、作品の基礎をなすものは、諸々の情熱の機構でも、出来事の必然的な継続でもなく、裸形にされた純粋の偶然というものなのである。此の喜劇を読んでゆくと、秩序も構図もなく寄せ集められた「雑多な事実」に満ちている新・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・科学の基礎をなすものは、物理界に於いても、化学界に於いても、すべて仮説だ。肉眼で見とどける事の出来ない仮説から出発している。この仮説を信仰するところから、すべての科学が発生するのだ。日本人は、西洋の哲学、科学を研究するよりさきに、まず聖書一・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 物理学の基礎になっている力学の根本に或る弱点のあるという事は早くから認められていた。しかし彼以前の多くの学者にはそれをどうしたらいいかが分らなかった。あるいは大多数の人は因襲的の妥協に馴れて別にどうしようとも思わなかった。力学の教科書・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・その前に教える事は極めて基礎的なところだけを、偏しない骨の折れない程度に止めた方がいい。それでもし生徒が文学的の傾向があるなら、それにはラテン、グリーキも十分にやらせて、その代り性に合わない学科でいじめるのは止した方がいい……」 これは・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・私たちは今基礎工事中です。金をちびちびためようとは思いません。できるのは一時です」彼はいくらか興奮したような声で言った。 私たちは河原ぞいの道路をあるいていた。河原も道路も蒼白い月影を浴びて、真白に輝いていた。対岸の黒い松原蔭に、灯影が・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・理性にも同情にも訴うるのでなく、唯過敏なる感覚をのみ基礎として近世の極端なる芸術を鑑賞し得ない人は、彼からいえば到底縁なき衆生であるのだ。女の嫌いな人に強て女の美を説き教える必要はない。酒に害あるはいわずと知れた話である。然もその害毒を恐れ・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫