・・・売淫。堕胎。三人の年とった、ヒスイの簪の脚で頭を掻いては絶えず喋っている媒合。自分。気違いがそこへ入って来た。ふらつき歩いた土足のまま何と云っても足を洗わない。着物の上にネンネコをひっかけ、断髪にもその着物の裾にも埃あくたをひきずっている。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・「堕胎」は有害だし、立派な医者の手でされてもいつもうまく行くとはきまっていない。 心配せずに働く婦人が母親となれるように、託児所を 監督に、要求しろ!〔一九三二年二月〕・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・允子が自分の姙娠を知って正式の結婚を求めるが公荘は、允子には話さなかった病妻が在り、堕胎をせまる。允子はそれを強く拒絶する。「国法を犯すことがこわいというより、胎内に芽んだものを枯らしてしまうことが恐しいのだ。」「どうにか育てられるものなら・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫