・・・そうして十五回の終りに判定者がロスの方に勝利を授けたが、この判定に疑問があるというので場内が大混乱に陥ったということである。自分は拳闘のことは何も知らないが、しかしこの判定がやはり少し変に思われた。 ロスの方は体躯も動作も曲線的弾性的で・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・おりから驟雨のあとで場内の片すみには川水がピタピタあふれ込んでいた。映画はあひる泥坊を追っかけるといったようなたわいないものであったが、これも「見るまでは信じられなくて、見れば驚くと同時に、やがては当然になる」種類の経験であった。ともかくも・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 場内の通風はあまり良好でないのか、傍聴席の空気は甚だ不純なようであった。 傍聴者は、みんな非常に真面目に黙って一心に下を覗き込んでいた。そういう人達の顔を見ると、下にはかなり真面目な重大な事柄が進行しているという事が分るような気が・・・ 寺田寅彦 「議会の印象」
・・・しかし二度目の最大動が来たときは一人残らず出てしまって場内はがらんとしてしまった。油画の額はゆがんだり、落ちたりしたのもあったが大抵はちゃんとして懸かっているようであった。これで見ても、そうこの建物の震動は激烈なものでなかったことがわかる。・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・尤もこんな事は美術とは何の関係もない事ではあるが、それでも感受性の鋭い型の観覧者に取っては、彼等が場内にはいって後に作品から受取る表象の同化異化作用に何らかの影響を及ぼさないものだろうか。こんな事を考えているとバーリントンハウスの玄関や、シ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 昼過ぎに上野へ出掛けたが、美術館前の通りは自動車で言葉通りに閉塞されていた。これも近年の現象である。美術が盛んになったのではなくて自動車が安くなったのであろう。 場内は蒸暑さに茹だるようであった。この美術館の設計はたしかに日本の気・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・翌日この劇場前を通ったら、なるほど、すべての入り口が閉鎖され平生のにぎやかな粧飾が全部取り払われて、そうして中央の入り口の前に「場内改築並びに整理のために臨時休業」という立て札が立っている。 近傍一帯が急にさびれて見えた。隣の東京朝日新・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ と叫ぶ場内の光景はいきいきと目にうかんで来る。われわれの文学史の、これが生きた一頁であった。「一連の非プロレタリア的作品」という論文は当時やかましく論議されたものである。わたしという一人の作家にふれる場合、見のがすことのできない母斑の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ゴーリキイが書いている思い出の中に、ロシアに博覧会があったとき袁世凱が来て、いかにも支那大官らしい歩きつきで場内を見物してまわったときの情景がいきいきと描かれている。その時袁世凱がしきりにそこに陳列されていた一つの宝石をほめ、そのほめかたは・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
何心なく場内を眺めているうちに、不思議なことに注意をひかれた。その夜は、明治、大正、昭和と経て還暦になった或る洋画家のために開かれた祝賀の会なのであった。この燈火の煌いた華やかな宴席には、もう何年も前に名をきき知っているば・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
出典:青空文庫