・・・ 三 読者は敏感であるから、そういう文学の場内で接触する作家たちに対して、確にある親しさは抱いているであろうが、それと同時に誰それは、とその作家の名を佐分利信を呼ぶと全く同じ調子で呼んで、ちょいとマスクがい・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・白と黒の市松模様の油障子を天井にして、色とりどりの菊の花の着物をきせられた活人形が、芳しくしめっぽい花の香りと、人形のにかわくささを場内に漲らせ、拍子木につれてギーとまわる廻り舞台のよこに、これも出方姿の口上がいて、拍子木の片方でそっちを指・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・華やかな桃色が走馬燈のように視覚にちらつき、いかにも女性的な興奮とノンセンスな賑わいが場内を熱くする。―― 一列に舞台の上できまり、さて桜の枝をかざして横を向いたり、廻ったり、単純な振りの踊りが始ったが、その中から顔馴染を見出すのは、案・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・―― 我々は閉めかけた場内の売店で、燻肉ののったパンをたべ茶を飲んだ。椅子が逆にテーブルの上にのっている。コップでレモンの輪が黄いろい。 この演出に、我々はクニッペルやスタニスラフスキー、カチャロフその他昔から深い繋りを作品と持って・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・静かに幕 第一幕 第二場 場所 王の場内の一部景 太い柱が堅固ラシクスクスクと立ちならんで、上手中央下手に左右に開く扉がある。四方にはドッシリした錦の織物を下げて床に・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 場内が明るくなって、間奏楽の響いているとき参吉は、「変な工合に現代の空気を反映してるみたいな作品だな」と云った。 丁度燈火管制の晩であった。二人は市電の或る終点で降りて、一斉に街燈が消され、月光に家並を照らし出されている通・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ 小波瀾が納まると、再び、待ちくたびれてどんよりとした重苦しさが場内に拡がった、そこへ不意にパッと満場の電燈が打った。わーというような無邪気な声と笑いが一斉に低いながら湧きおこった。国技館でも灯が入った刹那にはやはり罪のない歓声が鉄傘を・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫