・・・一室に孤座する時、都府の熱閙場裡にあるの日、われこの風光に負うところありたり、心屈し体倦むの時に当たりて、わが血わが心はこれらを懐うごとにいかに甘き美感を享けて躍りたるぞ、さらに負うところの大なる者は、われこの不可思議なる天地の秘義に悩まさ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・現代俳壇の乱闘場裏に馳駆していられるように見える闘士のかたがたが俳句の精神をいかなるものと考えていられるかは自分の知らんと欲していまだよく知りつくすことのできないところである。従って上記のごときは俳壇の諸家の一粲を博するにも足りないものであ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
小石川――目白台へ住むようになってから、自然近いので山伏町、神楽坂などへ夜散歩に出かけることが多くなった。元、椿山荘のあった前の通りをずっと、講釈場裏の坂へおり、江戸川橋を彼方に渡って山伏町の通りに出る。そして近頃、その通・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
出典:青空文庫