・・・ 金に飽かせて随分馬鹿な避暑旅行をするアメリカの中流階級以上の人達の中にもこの全く自然なキャムプ生活を楽む人が年々殖えると聞きます、あちらでは避暑としてのキャムプ生活は男女学生に限らずあらゆる階級を通じて全く家庭的の避暑法となっています・・・ 宮本百合子 「女学生だけの天幕生活」
・・・天帝に媚びれば、仕事が殖えるとでも思っているなら愚の骨頂だ。ミーダ ――……森としているなあ。何だか四辺ががらんとしすぎて、いつもなら聞えない第一天の物音が、つつぬけに耳の穴へ忍び込みそうだ。カラでも早く帰って来ればいいのに。二・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・一九三三年に、それは六万五千に殖えるだろう。幼稚園や遊び場へ行ってる子供は一九二八年にはみんなで二十二万五千三百人位だった。それは一九三三年に百四十万人になる予定だ。 これだけ見たってわかるだろう。ソヴェトの生産拡張五ヵ年計画が、つまり・・・ 宮本百合子 「楽しいソヴェトの子供」
・・・力のある満ち満ちた生き甲斐のある生活を好いて居る千世子にとって自分の囲りをかこむ人が一人でも殖えると云う事が嬉しかったし又満足されない自分の友達と云うものに対しての気持を幾分かは此人によって満足されるだろうと云う深く知り合わない人に対しての・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・ 本を読むにしても、数多くのものが早く読めるし、書くにしても量が殖える。 規則と云う事に或る程度まで縛られなければ人間の充実した生活は送れないとかと云うて居る人は、世の中を重箱にして見る人であろう。 私は、私に必要な規則は只私の・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・ 土地や金が、ただ「殖える」とか「広くなる」とかいう、そんなやにっこい言葉で彼女の快感は表わせないほど、熾んなのであった。 彼女は、しんから自分自身の生命の栄えを讃美しながら、次の対照の現われを強い自信と名誉をもって待っていたのであ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・好く殖える奴で、来年は十位になりまさあ。」「そうかい。」 私は買って帰って、土鉢に少しばかり庭の土を入れて、それを埋めて書斎に置いた。 花は二三日で萎れた。鉢の上には袂屑のような室内の塵が一面に被さった。私は久しく目にも留めずに・・・ 森鴎外 「サフラン」
・・・「あんな連中がこれから殖えるだろうか。」「殖えられて溜まるものか」と、犬塚は叱るように云って、特別に厚く切ってあるらしい沢庵を、白い、鋭い前歯で咬み切った。「木村君、どうだろう」と、山田は不安らしい顔を右隣の方へ向けた。「先・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・陸上の人数はますます殖える。舟はますますおもしろそうに上がって来る。老人と子供と女房たちは綱に捕まって快活に跳ねている。誰が命令するというでもないのに、一団の人々は有機体のように完全に協力と分業とで仕事を実現して行く。 私は息を詰めてこ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・中の嶋あたりに高層建築が殖えれば殖えるほど、大阪城の偉大さは増して来る。そうしてそれは、江戸城の場合とは異なって、まず何よりもあの石垣の巨石にかかっている。あの巨石は決して「何げのない」「当たり前」のものとは言えぬ。のしかかるように人を威圧・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫