・・・ 私は本多子爵が、今でこそ交際嫌いで通っているが、その頃は洋行帰りの才子として、官界のみならず民間にも、しばしば声名を謳われたと云う噂の端も聞いていた。だから今、この人気の少い陳列室で、硝子戸棚の中にある当時の版画に囲まれながら、こう云・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・佐佐木氏は兎に角声名のある新進作家でありますから、やはり『半肯定論法』位を加えるのに限ると思います。……」 * * * * * 一週間たった後、最高点を採った答案は下に掲げる通りである。「正に器用には書いている。が、畢竟そ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・と落ちつきなく部屋をうろつき、「あいつはそんな無茶なことをやらかして、おれの声名に傷つけ、心からの復讐をしようとしている。変だと思っていたのだ。ゆうべ、おれに、いつにないやさしい口調で、あなたも今月はずいぶん、お仕事をなさいましたし、気休め・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・よし、ここは、一奮発して、大いなる声名を得なければならぬ」と決意して、まず女房を一つ殴って家を飛び出し、満々たる自信を以て郷試に応じたが、如何にせん永い貧乏暮しのために腹中に力無く、しどろもどろの答案しか書けなかったので、見事に落第。とぼと・・・ 太宰治 「竹青」
出典:青空文庫