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・・・乗って来た自転車を、其のまま売り払うのは、まだよい方で、おじいさんが懐からハアモニカを取り出して、五銭に売ったなどは奇怪でありました。古い達磨の軸物、銀鍍金の時計の鎖、襟垢の着いた女の半纏、玩具の汽車、蚊帳、ペンキ絵、碁石、鉋、子供の産衣ま・・・
太宰治
「老ハイデルベルヒ」
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・・・松の傍に石を添える事はあるでしょうが、松を切って湯屋に売払う事はよほど貧乏しないとできにくい。せっかくの松を一片の煙としてしまうともう、情を働かす余地がなくなるからであります。して見ると文芸家は「物の関係を味わうものだ」と云う句の意味がいさ・・・
夏目漱石
「文芸の哲学的基礎」