・・・ 私は、享楽のために売春婦かったこと一夜もなし。母を求めに行ったのだ。乳房を求めに行ったのだ。葡萄の一かご、書籍、絵画、その他のお土産もっていっても、たいてい私は軽んぜられた。わが一夜の行為、うたがわしくば、君、みずから行きて問え。・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・変る夜ごとの枕に泣く売春婦の誠の心の悲しみは、親の慈悲妻の情を仇にしたその罪の恐しさに泣く放蕩児の身の上になって、初めて知り得るのである。「傾城に誠あるほど買ひもせず」と川柳子も已に名句を吐いている。珍々先生は生れ付きの旋毛曲り、親に見放さ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・で第一、警察官の民主化の実行、第二、地方刑罰条例の濫発への警告――売春等取締条例・公安条例など「国会で決定せず、地方自治体できめしかもムヤミにつくりたがる傾向」を批判していた。一九四八年に人権擁護委員会が置かれてから取扱った件数八八一七件。・・・ 宮本百合子 「修身」
・・・一、今案条例一、売春婦取しまり条例 一般の婦人のこまること、 これはどこまでゆくか。 毎日は云っている「おそらく世界の文明国と云われる国々では、もう政治や思想ないしは行動についての人権の擁護は 当然・・・ 宮本百合子 「東大での話の原稿」
・・・ 外国の諸国にも、売春婦はどっさりいる。しかし、私たち日本の女は、夫の戦死されたあと、ママという通称をもった街の女がいて、三人の子供をどこかにのこしたまま、くびり殺されたことを忘れてはならない。今日の日本では子持の街の女も、かなりの高率・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・集るものは瓦と黴菌と空壜と、市場の売れ残った品物と労働者と売春婦と鼠とだ。「俺は何事を考えねばならぬのか。」と彼は考えた。 彼は十銭の金が欲しいのだ。それさえあれば、彼は一日何事も考えなくて済むのである。考えなければ彼の病は癒るのだ・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫