・・・商売道具の衣裳も、よほどせっぱ詰れば染替えをするくらいで、あとは季節季節の変り目ごとに質屋での出し入れで何とかやりくりし、呉服屋に物言うのもはばかるほどであったお蔭で、半年経たぬうちにやっと元の額になったのを機会に、いつまでも二階借りしてい・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・従って風の変わり目の無風が著しく現われるのである。夕なぎに対して朝なぎもあるが、特に夕なぎの有名なのはそれが気温の高い時刻であるがためであろう。 夕なぎの継続時間の長短はいろいろな事情にもよるが海岸からの距離がおもな因子になる。すなわち・・・ 寺田寅彦 「海陸風と夕なぎ」
・・・夭死と云う事が、何だか一種の美しい事のような心持がしたし、またその時考えていた死と云うものは、有が無になるような大事件ではなく、ただ花が散ってその代りに若葉の出るようなほんのちょっとした変り目で、人が死んでも心はそこらの野の花になって咲いて・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
出典:青空文庫