・・・旦那は藁一筋のことにでも目の変るような人だった。掃除が終っても、すぐごはんにならず、使いに走らされる。朝ごはんの前に使いに遣ると、使いが早いというのです。その代り使いから帰ると食べすぎるというので、香の物は恐しくまずく漬けてある。香の物がま・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・第一処が変れば周囲の空気からして変るというもんで、自然人間の思想も健全になるというような訳で……」斯う云ったようなことを一時間余りもそれからそれと並べ立てられて、彼はすっかり参っていた処なので、もう解ったから早く帰って呉れと云わぬばかしの顔・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・また手加減が窮屈になったりすると音が変る。それを「声がわり」だと云って笑ったりしました。家族の中でも誰の声らしいと云いますから末の弟の声だろうと云ったのに関聯してです。私は弟の変声期を想像するのがなにかむごい気がするときがあります。次の話も・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・日本全国、どこの城下も町は新しく変わり、士族小路は古く変わるのが例であるが岩――もその通りで、町の方は新しい建物もでき、きらびやかな店もできて万、何となく今の世のさまにともなっているが、士族屋敷の方はその反対で、いたるところ、古い都の断礎の・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・吾々は、ブルジョア的平和主義者や、日和見主義者に変ることなく、吾々が階級社会に住んでいること、階級闘争と支配階級の権力の打倒との外には、それからの如何なる遁れ路もないし、またあり得ないことを忘れてはならぬ。吾々のスローガンはこうでなければな・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
秀吉金冠を戴きたりといえども五右衛門四天を着けたりといえども猿か友市生れた時は同じ乳呑児なり太閤たると大盗たると聾が聞かば音は異るまじきも変るは塵の世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経もまたこれを説けりお噺は山・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・子供の変わって行くにも驚く。三郎も私に向かって、以前のようには感情を隠さなくなった。めまぐるしく動いてやまないような三郎にも、なんとなく落ちついたところが見えて来た。子供の変わるのはおとなの移り気とは違う、子供は常に新しい――そう私に思わせ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・男等の位置と白楊の位置とが変るので、その男等が歩いているという事がやっと知れるのである。七人とも上着の扣鈕をみな掛けて、襟を立てて、両手をずぼんの隠しに入れている。話声もしない。笑声もしない。青い目で空を仰ぐような事もない。鈍い、悲しげな、・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・トランプの遊びのように、マイナスを全部あつめるとプラスに変るという事は、この世の道徳には起り得ない事でしょうか。 神がいるなら、出て来て下さい! 私は、お正月の末に、お店のお客にけがされました。 その夜は、雨が降っていました。夫は、・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ アインシュタイン「見やすいとか見やすくないとかいう事は時代とともに変るもので、云わば時の函数であります。ガリレーの時代の人には彼の力学はよほど見やすくないものだったでしょう。いわゆる見やすい観念などと称するものは、例の『常識』『健全な・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫