・・・地方にも都会にも様々の形で各機構に入りこんでいる右翼くずれ、特高の変形は、人民の統一行動を攪乱するのが唯一の任務であるから、一見勇敢な闘士めいて、どういう挑発をしないものでもない。もし人民が、現在日本政府は武力をもっていないという公の建前を・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・日本の知性は、直接その本質的な対象には立ち向わず、それをずらして、ファシズムと治安維持法の野蛮の生々しい図絵をついそこで展開させ、彼らの恐怖を新しく目ざまさせるモメントとなる左翼の行動に対して、恐怖の変形した憎悪と反撥とを示したのであった。・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・のに比べて、過去の日本の市民精神の欠如から個性と社会とのいきさつを、科学的につっこんで把握する能力が育てられていないために、今日、民主主義文学といわれると、それさえも過去に自分を強制した、その強制の一変形でありそうに感じて、抵抗する心理です・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 日本で婦人の知性が云われる場合、永い歴史が今日までそのかげを投げている独特な習俗によって、知性の本質に対する解釈もおのずと変形させられて、活溌な、動的な、時には破綻を恐れず荒々しい力で新しい人生の局面をも開こうとする面はとかくうしろに・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・音楽上のディフォーメイション、文学上のディフォーメイション、それはどれもみんな主観的な角度で或は感覚で客観的な現実を別の形に変形させること、つまりディフォームさせることである。 人間精神の美と客観的真実とはディフォーメイションであるだろ・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・ あらゆる時期と場合にあらゆる変形をもって、合理的な判断を守り、沈黙することは決して思索し、批判することをやめることではない。思想は、人間が生きているということと全く切りはなせないものであるという自覚が、各人の日常生活態度に浸透しつくし・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・そして、西村氏と姓を書いて、矢車のすこし変形したような紋がついている手桶を出させ、さて、一行は、庫裏のよこてから、井戸へゆくのだった。 いよいよ井戸へ向うことになると、子供たちは勇みたった。それは、もう牧田の牛が目のさきだからだった。け・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・一旦、将に生きて体臭をはなって、映画の中にあるように自動車ののり降りに軽く肱を支えてくれる碧眼の男があらわれると、気分が先ず空想の世界へとび入ってしまい、素朴に日本の女の本質的には至って古風な受動性の変形である恍惚境にとけ込んで、計らざる結・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・プロレタリア文学の伝承を忌避したがる一部の人々があるが今日力をつくして拒否すべきものは、文学運動までをああいう目にあわせた兇暴な治安維持法の変形した再登場である。わたしたちが人間として自然にもつ恐怖を主張し、その原因たる悪権力を克服しようと・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学の存在」
・・・ ハイド公園に近いピカデリー通りで貴族の邸宅は年々クラブや自動車陳列店と変形しつつあった。そして、バッキンガム宮殿の鉄柵に沿って今もカーキ色服に白ベルトの衛兵が靴の底をコンクリートに叩きつけつつ自働人形的巡邏を続けているであろう。になっ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫