一 クリスマス 昨年のクリスマスの午後、堀川保吉は須田町の角から新橋行の乗合自働車に乗った。彼の席だけはあったものの、自働車の中は不相変身動きさえ出来ぬ満員である。のみならず震災後の東京の道路は自働車を躍ら・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 勝軍地蔵か祇尼天か、飯綱の本体はいずれでも宜いが、祇尼は古くからいい伝えていること、勝軍地蔵は新らしく出来たもの、だきには胎蔵界曼陀羅の外金剛部院の一尊であり、勝軍地蔵はただこれ地蔵の一変身である。大日経巻第二に荼枳尼は見えており、儀・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・しかし、この女のように、こんなに見事に変身できる女も珍らしい。「さては、相当ため込んだね。いやに、りゅうとしてるじゃないか。」「あら、いやだ。」 どうも、声が悪い。高貴性も何も、一ぺんに吹き飛ぶ。「君に、たのみたい事があるの・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ばけもの奇術師が、よく十二三位までの女の子を、変身術だと申して、ええこんどは犬の形、ええ今度は兎の形などと、ばけものをしんこ細工のように延ばしたり円めたり、耳を附けたり又とったり致すのをよく見受けます。」「そうか。そして、そんなやつらは・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫