・・・耳にかけた輪数珠を外すと、木綿小紋のちゃんちゃん子、経肩衣とかいって、紋の着いた袖なしを――外は暑いがもう秋だ――もっくりと着込んで、裏納戸の濡縁に胡坐かいて、横背戸に倒れたまま真紅の花の小さくなった、鳳仙花の叢を視めながら、煙管を横銜えに・・・ 泉鏡花 「栃の実」
・・・矢張り見合いは気になっていたのだが、まだいくらか時間の余裕はあったから、少しだけつきあって、いよいよとなれば席を外して駈けつけよう、そんな風な虫のよいことを考えてついて行ったところ、こんどはその席を外すということが容易でなく、結局ずるずると・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・むしろ、むっつりして、これで遊べば滅茶苦茶に羽目を外す男だとは見えなかった。 割合熱心に習ったので、四、五日すると柳吉は西瓜を切る要領など覚えた。種吉はちょうど氏神の祭で例年通りお渡りの人足に雇われたのを機会に、手を引いた。帰りしな、林・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・しばらくかけていて外すと、眼の前に蜘蛛の糸でもあるような気がして、思わず眼の上を指先でこすってみた。それから気が付いて考えてみると、近頃少し細かい字を見る時には、不知不識眼を細くするような習慣が生じているのであった。 去年の夏子供が縁日・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・と鉄の栓張をからりと外す。切り岸の様な額の上に、赤黒き髪の斜めにかかる下から、鋭どく光る二つの眼が遠慮なく部屋の中へ進んで来る。「わしじゃ」とシワルドが、進めぬ先から腰懸の上にどさと尻を卸す。「今日の晩食に顔色が悪う見えたから見舞に来た・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・大将「ファンテプラーク章じゃ。」外す。特務曹長「あまり光って眼がくらむようであります。」大将「そうじゃ。それは支那戦のニコチン戦役にもらったのじゃ。」特務曹長「立派であります。」大将「それはそうじゃろう」大将「どうじ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
出典:青空文庫