・・・ 今日の所謂戦線ルポルタージュには、何となくただ眼をうごかして外側にある物事を見るにせわしい作家達の態度が映っている。「こわいもの見たさというか、男の虚栄心からか」前線へもゆきたがる作家を、陸軍の従軍報道班の人々は忍耐をもって、適当に案・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・女らしさというものの曖昧で執拗な桎梏に圧えられながら生活の必要から職業についていて、女らしさが慎ましさを外側から強いるため恋愛もまともに経験せず、真正の意味での女らしさに花咲く機会を失って一生を過す人々、または、女らしき貞節というものの誤っ・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・三等列車の鋼鉄ではられた外側いっぱいに「五ヵ年計画を四年で!」というスローガンや、工場と農村の労働、その結合を主題にした絵、または一目見ても思わずふき出すような反宗教の漫画を描いた列車が、屋根に赤い旗をひるがえし、窓からつき出した元気な若者・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ それはまことに尤もなのだし、本人として外側から及ぼすどんな力も願ってはいなかったのだけれども、それでも先生の聰明な如才なさのうちに閃くように自身の未来を空白として感じとることは苦しかった。もしそれでいいのなら、こんなにもがきはしないの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・そう云う外側からだけの考えでは――」 三人とも熱し、千鶴子は帰る時眼に涙を浮べていた。 はる子のいうことが全然誤っているとは、千鶴子も考えていなかった。「貴女は、明るい朗らかな方だから」云々。またそういうはる子の性質が、自分・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
托児所からはじまる モスクはクレムリとモスク河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・金属製で外側はイギリス好みの濃い赤でぬられているところへ、茶色エナメルでがんじょうな〆皮と金ピカの留金とがついている。それはただ平ったい上に描かれているのではなかった。ちゃんとさわってみると〆皮のところは〆皮のように、留金のところはそのよう・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ツルゲーネフも、それにつれて外側から観察しそれぞれの時代の作品を書いて行ったが、パリにおける自身の生活の実践ではヴィアルドオ夫人に支配され、始めの時代の懶い形態から本質的には何の飛躍もしないままに残ったのである。 同じように婦人のために・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ ホールへ入りながら、そして、外側はあんな青虫のように青かったのに、内部一面は見渡す限り茶色なのに、また異った暑気を感じながら、私は、「一寸お昼がたべさせて欲しいのだが……」と告げた。――これは予定の行動であった。若し第一瞥が余・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・まず廊下であるが、板の張り方は日本風でありながら、外側にペンキ塗りの勾欄がついていて、すぐ庭へ下りることができないようになっていた。そうしてこういう廊下に南と東と北とを取り巻かれた書斎と客間は、廊下に向かって西洋風の扉や窓がついており、あと・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫