・・・いつかおれはあの男が、海へ卒塔婆を流す時に、帰命頂礼熊野三所の権現、分けては日吉山王、王子の眷属、総じては上は梵天帝釈、下は堅牢地神、殊には内海外海竜神八部、応護の眦を垂れさせ給えと唱えたから、その跡へ並びに西風大明神、黒潮権現も守らせ給え・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・竜神、竜女も、色には迷う験し候。外海小湖に泥土の鬼畜、怯弱の微輩。馬蛤の穴へ落ちたりとも、空を翔けるは、まだ自在。これとても、御恩の姫君。事おわして、お召とあれば、水はもとより、自在のわっぱ。電火、地火、劫火、敵火、爆火、手一つでも消します・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・また、内海では満干の高さが外海の倍にもなるところがあります。このようにあるところでは満潮であるのに他のところでは干潮になったり、内海の満干の高さが外海の満干の高さの倍になるところのあるのは、潮の流れが狭い海峡を入るために後れ、また、方々の入・・・ 寺田寅彦 「瀬戸内海の潮と潮流」
・・・ 二月の海浜は、まして避寒地として有名でもない外海の浜はさびれていた。佐和子は、妹と並んで防波堤兼網乾し場の高いコンクリートのかげで、日向ぼっこをしていた。正月に、漁師たちが大焚火でもしてあたりながら食べたのだろう、蜜柑の皮が乾から・・・ 宮本百合子 「海浜一日」
出典:青空文庫