・・・そして見ると、善にせよ悪にせよ人の精神凝って雑念の無い時は、外物の印象を受ける力もまた強い者と見える。 材木の間から革包を取出し、難なく座敷に持運んで見ると、他の二束も同じく百円束、都合三百円の金高が入っていたのである。書類は請取の類。・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・スピノザも外物については、我々の精神は不十全なる知識しか有せないという。十全と不十全とは程度の差ではなくして、性質的に異なっていなければならない。そこに立場の相違がなければならない。 デカルト以来、十全なる知識といえば、数学的知識の例を・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・それとも私なしに外物を愛する Altruismus であろうか。人間のする事の動機は縦横に交錯して伸びるサフランの葉の如く容易には自分にも分からない。それを強いて、烟脂を舐めた蛙が膓をさらけだして洗うように洗い立てをして見たくもない。今私が・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫