・・・直ちに外科室の方に赴くとき、むこうより戸を排してすらすらと出で来たれる華族の小間使とも見ゆる容目よき婦人二、三人と、廊下の半ばに行き違えり。 見れば渠らの間には、被布着たる一個七、八歳の娘を擁しつ、見送るほどに見えずなれり。これのみなら・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・生れて初めて外科の手術を受けたとのことで、「実に聊かな手術なのに……」と苦笑して、その手術の時のことを話された。 軽い手術だから医者は局部注射の必要もないと言ったが、夏目さんは強いてコカエン注射をしてもらった上に、いざ手術に取りかかると・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
たいそう外科的手術を怖ろしがっている、若い婦人がありました。 もし、すこしぐらいの痛さを我慢をして、手術を受けるなら、十分健康を取り返すことができるのを、どうしても、その婦人は、手術を受けることを欲しなかったのです。 季候の変・・・ 小川未明 「世の中のこと」
・・・ 盲腸という無用の長物に似た神秘のヴェールを切り取る外科手術! 好奇心は満足され、自虐の喜悦、そして「美貌」という素晴らしい子を孕む。しかし必ず死ぬと決った手術だ。 やはり宮枝は慄く、男はみな殺人魔。柔道を習いに宮枝は通った。社交ダンス・・・ 織田作之助 「好奇心」
・・・まる一月その外科の病院に寝たきりで、頭をもたげることさえようようであった。私は五月に世田谷区経堂の内科の病院に移された。ここに二カ月いた。七月一日、病院の組織がかわり職員も全部交代するとかで、患者もみんな追い出されるような始末であった。私は・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・私は蒲団のままで寝台車に乗せられ、阿佐ヶ谷の外科病院に運ばれた。すぐに手術された。盲腸炎である。医者に見せるのが遅かった上に、湯たんぽで温めたのが悪かった。腹膜に膿が流出していて、困難な手術になった。手術して二日目に、咽喉から血塊がいくらで・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後、特に外科医の方で注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として、特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出てきた。こうなると今度は、それ・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・各地に旅行中の夜のわびしさをまぎらせるにはやはりいちばん活動が軽便であった、ブリュッセルの停車場近くで見た外科手術の映画で脳貧血を起こしかけたこともあった。それは象のように膨大した片腕を根元から切り落とすのであった。 帰朝後ただ一度浅草・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・医者が来て見ると、どうも右肩の鎖骨が折れているらしいというので驚いて整形外科のT博士に診てもらうとやはり鎖骨がみごとに折れている。しかしそのほうはたいした事ではない。それよりも右耳の後上部の頭蓋骨をひどく打ったらしい形跡があって、そのほうが・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・そういう場合のあることは昔からも知られていたであろうが、それが欧州大戦以後特に外科医のほうで注意され問題にされ研究されて、今日では一つの新療法として特殊な外科的結核症や真珠工病などというものの治療に使う人が出て来た。こうなると今度はそれに使・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫