・・・「変目伝」の作者広津柳浪は、当時の文学者としては西欧風の心理主義作家であったが、ある作品で売国奴・非国民と罵られてから、そういう日本の文化感覚に対して自分の書く文学は無いと、以来、絶筆してしまった。「外科室」をかいた鏡花がお化けの世界へ逃避・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ 防腐外科なんぞは、翁は分っている積りでも、実際本当には分からなかった。丁寧に消毒した手を有合の手拭で拭くような事が、いつまでも止まなかった。 これに反して、若い花房がどうしても企て及ばないと思ったのは、一種の Coup d'ドヨイ・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・果物屋の横には外科医があった。そこの白い窓では腫れ上った首が気惰るそうに成熟しているのが常だった。 彼はこれらの店々の前を黙って通り、毎日その裏の青い丘の上へ登っていった。丘は街の三条の直線に押し包まれた円錐形の濃密な草原で、気流に従っ・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫