・・・ 新宿は特に帰えりに廻わってもらうことにして、自動車は淀橋から右に入って、代々木に出て、神宮の外苑を走った。二人は窓硝子に頬も、額も、鼻もぺしゃんこに押しつけて、外ばかりを見ていた。青バスの後に映画のビラが貼られているのを見ると、一緒の・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・木綿をきり売りの手拭を下谷の天神で売出した男の話は神宮外苑のパン、サイダー売りを想わせ、『諸国咄』の終りにある、江戸中の町を歩いて落ちた金や金物を拾い集めた男の話は、近年隅田川口の泥ざらえで儲けた人の話を想い出させて面白い。これの高じたもの・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
一 若葉のかおるある日の午後、子供らと明治神宮外苑をドライヴしていた。ナンジャモンジャの木はどこだろうという話が出た。昔の練兵場時代、鳥人スミスが宙返り飛行をやって見せたころにはきわめて顕著な孤立した存・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 一昨日の早慶戦では、住んでいるところが外苑から近いので、夕方五時すぎ用があって外出したら、後から後からひどい群集で、電車にものれず、暫く往来でこの人出を見物しておりました。そしたら、もう早速暴行問題で、いやな心持です。新聞で見た応援の・・・ 宮本百合子 「現実の問題」
・・・ 十一月十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 十一月十一日 水 第十九信 曇天 午後二時外苑で三万人の学生や青年団が音楽祭をやって君ガ代をうたっている ラジオ。 きのうは、先月のときから見ると、や・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・それで町の有志ともはかって、十万円ばかりの余算で、内苑外苑からすっかり改築して、伊勢まで行かれない人々は、此処へ来て、お参〔以下欠〕 四月二十七日 今日大学の大通りを散歩して、計らずも、久しい間求めて居たリビングストン伝を見出す・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・じきだというのに、左側にそれらしい建物もなくて、人家らしいものはなくなり、ガードと、神宮外苑の一部が見えはじめた。ひろ子は、心細くなってリアカーを曳いた男と立ち話をしていたエプロン姿のお神さんに、電気熔接学校と云って訊いてみた。そこのガード・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 種々の点から、今東京に居遺る大多数は希望を持った熱心に励まされて働いているが、昨夜のように大風が吹き豪雨でもあると、私はつい近くの、明治神宮外苑のバラックにいる人々のことを思わずにいられなくなる。あれ程の男女の失業者はどうなるか。その・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫