・・・第一の方法では材料になっている人間――無論それは他人と限った事はない、自分でもいい――をその外部に現われた行為や言語のみによって叙述して、その人間の能知者たる内部に立ち入らない。そういう意味から云えば劇のごときもこの類に入れられない事もない・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・行っていないと云うのは、先程も申した通り活力節約活力消耗の二大方面においてちょうど複雑の程度二十を有しておったところへ、俄然外部の圧迫で三十代まで飛びつかなければならなくなったのですから、あたかも天狗にさらわれた男のように無我夢中で飛びつい・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・津田君は外部の刺激のいかんに関せず心は自由に働き得ると考えているらしい。心理学者にも似合しからぬ事だ。「しかしそれだけじゃないのだからな。精細なる会計報告が済むと、今度は翌日の御菜について綿密な指揮を仰ぐのだから弱る」「見計らって調・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・いたずらに外部から観察して綺麗に纏め上げた規則をさし突けてこれは学者の拵えたものだから間違はないと思ってはかえって間違になるのです。 お前の云う通りにすると、大変おかしいことがある。例えて見れば芝居の型だ。また音楽の型とも云うべき譜であ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・見ますと、まず個人にあってはすでに模範が出来上りまたその模範が完全という資格を具えたものとしてあるのだから、どうしてもこの模範通りにならなければならん、完全の域に進まなければならんと云う内部の刺激やら外部の鞭撻があるから、模倣という意味は離・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・そのマシン油たるや、充分に運転しているジャックハムマーの、蝶バルブや、外部の鉄錆を溶け込ませているのであったから、それは全く、雪と墨と程のよい対照を為した。 印度人の小作りなのが揃って、唯灰色に荒れ狂うスクリーンの中で、鑿岩機を運転して・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・畢竟婦人が家計の外部に注意せざりし落度にこそあれば、夫婦同居、戸外の経営は都て男子の責任とは言いながら、其経営の大体に就ては婦人も之を心得置き、時々の変化盛衰に注意するは大切なることにして、我輩の言う女子に経済の思想を要すとは此辺の意味なり・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・検挙という外部からの理由でなしに中断した唯一の作品である。 いま考えれば、作者によって、あれだけ多量・広汎にソヴェト生活報告は執筆されているときであるから「ナルプ」は、啓蒙的な必要のためには、最もじかにその目的をもって書かれているそれら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・は小説とすると、比較的外部からかかれている。しかし、当時のソヴェトの生活のごく日常的な面を、自分の見たままリアルにかこうとしている点には意味がある。もっとも「赤い貨車」をかいた頃、作者は自分の見ているソヴェトの現実が、どんなに巨大な機構のう・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・ 見物の心に迫って来る俳優の技術は、只外部から磨をかけられた腕の冴えばかりではない。昔のように「型」できめて行くだけではなく、真個に我々の中の生活を、内部から立体的に描写して行く場合には、先ず、役者が演じようとする世界に対して持っている・・・ 宮本百合子 「印象」
出典:青空文庫