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・・・ 一方は、燃ゆるがごとき新情想を多能多才の器に包み、一生の寂しみをうち籠めた恋をさえ言い現わし得ないで終ってしまった。その生涯はいかにも高尚である、典雅である、純潔である。僕が家庭の面倒や、女の関係や、またそういうことに附随して来るさま・・・
岩野泡鳴
「耽溺」
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・・・中には両方面を併せて豊富に有っている多能な人もないではない。 ボーアのごときはむしろこの第二のタイプの学者であるように思われる。従って世間からうるさく取りすがられ駆使される事なしに、そっとして構わないでおいてもらう事に最大の幸福を感ずる・・・
寺田寅彦
「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」