・・・る、電車の中や薄暗いところで読むと眼にいけない、活字のちいさな書物を読むと近眼になるなどと言われて、近頃岩波文庫の活字が大きくなったりするけれど、この人達は電車の中でも読み、活字の大小を言わず、無類の多読を一生の仕事のようにして来たにもかか・・・ 織田作之助 「僕の読書法」
・・・すぎた多読も読まないより遙かにまさっている。 学生時代においては読書しないとは怠惰の別名であるのが普通である。「勉強の虫」といわれることは名誉である場合が多い。われわれも学生時代に課業のほか、寄宿舎の消灯後にも蝋燭をともして読書したもの・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ いずれにしても無批判的な多読が人間の頭を空虚にするのは周知の事実である。書物のなかったあるいは少なかった時代の人間のほうがはるかに利口であったような気もするが、これは疑問として保留するとして、書物の珍しかった時代の人間が書物によって得・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・これは何も多読することが、非常によいと自覚してのわけではない。ただ漠然と読書ということに興味を持っていたためだろう。そのへんの事はしかとわからぬが、なんでも種々の書物によく目をさらした。小学校にいたころは、昔博文館から出ていた「日本少年」を・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・しかも、心の内側にぎっしりつめこまれている人生からの雑多な印象、驚くべき多読からの不秩序な蓄積、いろんな疑問、悩みを択り分けるだけの力も手段もない。それらの精神の重荷が、ゴーリキイをひょろつかせた。不幸、病気、泣きごと、流血、殴打、ひどい言・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫