・・・店とはいっても葦簾囲いの中に縁台が四つ五つぐらい河原の砂利の上に並べてあるだけで、天井は星の降る夜空である。それが雨のあとなどだと、店内の片すみへ川が侵入して来ていて、清冽な鏡川の水がさざ波を立てて流れていた。電燈もアセチリンもない時代で、・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ヴェランダの彼方の祭の夜空にエッフェル塔のシトロエンの広告が、この高さでまた新しく甦って来る音楽やどよめきの上に、6シリンダア6シリンダアと機械的な明滅をつづけていた。〔一九三九年九月〕・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・遠くで夜空を燃している光の家、労働宮のイルミネーションが夜の河面へとけ込んでいる。クレムリンの長い外壁は灯のけない暗闇だから、遠いそこだけが何とも云えず輝かしい。 五色のイルミネーションは対岸のモスクワ市発電所にもあって、三百六十四日は・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・昼夜白熱して夜空にまで広告のテレヴィジョンを映している不眠の都市。ウォール街を中心に渦巻く宣伝の都市ニューヨークの旅で迎える三月八日平和のための国際婦人デーは労働組合からの婦人代表もふくむこれら十名の日本婦人たちに何を考えさせるだろうか。・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
出典:青空文庫