・・・女殿、お二人の御年寄――さらばじゃ、この上ないよろこびのみちたところへ行く――青い水草は私の体をフンワリと抱えて冬の来ぬ国につれて行くワ、一寸の間頭の上に置いてたもった精女殿の指のほそさとうでの白さを夢見ながら、三人のかおをジッと見・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・「とうとう私たちは、永年夢見ていた私たちの国の復活を見たのです。」しかしキュリー夫人は歴史の現実の複雑さに対してもやはり一個の洞察を持っていた。彼女はその喜びに酔わずに、さながら十九年後の今日を見透したように、続けていっている。「私・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・元ずっと前 国男が首を吊ってフロの中に下って死んで居た夢見たときも目をさましてから、その悲しみに打たれた心持去らず悲しかった、それに似て居る。 A、Y、志賀さんA、Y、 Yの心のよさに対して自分は彼女を 傷つけること・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・とを勝利の花飾りとして情熱的に夢見つつ、文学の仕事にとり組みはじめたのである。 二十歳のバルザックはレディギュール通りの屋根裏で、ストーブもたけず、父親の古外套で慄える体をくるみながら、ひどい勢で先ず幾つかの喜歌劇を書いた。喜劇「二人の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・然し、自分達の墓のある土地で彼等が生きつづける――どうしてそんなことが夢見られよう! ダーリヤ・パヴロヴナ自身にさえ、彼女の一生は地球儀のどの色で塗られている場所で終るのか、予想もつかないではないか。地球の面の広さ、そこに撒かれた自分達の生・・・ 宮本百合子 「街」
・・・美くしい詩人は彼の森の女が泣きたおれて正体もない様子を夢見たんでした。それは只夢でしたけれ共、若い心をもった詩人の心からは涙が出るんでした。けれども起きなおってその着物を着て髪をかきつけて出て行きました。夕飯はたのしくすみました。詩人は母が・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・子供の出世を夢見ていたところが子供は横道へそれてしまった。思惑ががらりと外れたんであんな風になったんじゃないんですか。株に失敗して気が違う人間がよくありますが、あれもまあそれと似たり寄ったりらしいですね。息子に投資して値上りを待っていたら突・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫