・・・』『大きにお世話だッて言ってやればいいに。』と女房は言って見たが、笑わざるを得なかった、娘も笑った。『だから二合取って来てくんねえッてんだ。』『ほんとに今夜はおよしよ、道が悪くってお菊がかあいそうだから。』女房は優しく言った。・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜しいのだ。あの人は、阿呆なくらいに自惚れ屋だ。私などから世話を受けている、ということを、何かご自身の、ひどい引目ででもあるかのように思い込んでいなさるのです。あの人は、なんでもご自身で出来・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・「何を言ってやがる。寝呆けているんだよ。しっかりし給え。僕は、帰るぜ。」「ああ、しっけい。君、君、」と又、呼びとめて、「勉強し給えよ。」「大きにお世話だ。」 颯爽と立ち去った。私は独り残され、侘しさ堪え難い思いである。その実・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ ナア、そうやろ、ほんまに大きに御邪魔、御めんやす」 御まきさんは御仙さんに御辞ぎをさせてそそくさと玄関に行ってしまった、「西の人はゆっくりだってのにあなたは随分せっかちだ事」 母はこんな事を云いながら送った、私も御仙さんの・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ 台所は遣って呉れる人があると云う安心も、大きにあずかって力あることだろう。 瓦斯があり、風呂場がなくても建てる場所さえあって四辺が静かなら、外に希望はなく思ったのである。 今の家はひどい。表通りを荷物自動車が通ると、地震のよう・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ところが三郎は成長するに従って武術にも長けて来て、なかなか見どころのある若者となったので養父母も大きに悦び、そこでそれをついに娘の聟にした。 その時三郎は十九で忍藻は十七であった。今から見ればあまりな早婚だけれど、昔はそのようなことには・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・「そうかな、大きに大きに。」「塩が足らんだら云いや。」「結構結構。」 安次は茶碗からすが眼を出して口を動かした。「こりゃええ、麦粉かな?」「こりゃ麦や、塩加減はええか?」「上加減や、こりゃうまい、お霜さん、わしは・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫